相続、贈与、財産分与、売買などにより不動産の所有者が変わった場合には、名義変更の登記申請が必要です。
申請の手続きは、登記の専門家である司法書士に頼むことが多いかと思います。
では、自分で登記を申請することはできるのでしょうか?
結論からお話しすると、法律上は、自分自身で登記を申請することも可能です。
本稿では、自分で名義変更の登記を申請する場合の流れや注意点について、解説をしていきたいと思います。
この記事で分かること
名義変更の登記が必要な理由
名義変更の登記申請は、今のところ義務ではありません。
しかし、登記の名義を変えないと、自分がその不動産の所有者であることを、他の人に対して主張できません。
また、取得した不動産を売却したり、その不動産を担保に融資を受けたりする際にも、前提として、登記の名義を自分へと書き換えている必要があります。
なお、相続登記については、法改正により、令和6年度から義務化される見通しとなりました。
改正法では、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければならない、とされています。
正当な理由がないのに登記を申請しなかった場合には、10万円以下の過料が科されます。
施行日前に発生した相続についても義務化の対象となりますので、早めに手続きをするようにしましょう。
自分で登記申請をする場合の基本的な流れ
ご自身で登記申請する際の基本的な流れは以下の通りです。
物件の状態を調べる
まずは、法務局で対象物件の謄本を取得します。
謄本を取得するだけであれば、物件の所在地を管轄する法務局まで行く必要はありません。
最寄りの法務局に行けば、全国どの物件の謄本でも取得することができます。
必要な書類を揃える
必要な書類は、自分で作成するものと、役所で取得するものとがあります。
前者の例としては、契約書や遺産分割協議書、後者の例としては、印鑑証明書や戸籍謄本などが挙げられます。
申請書を作る
申請書のひな型や記載例は、法務局のホームページに掲載されていますので、該当のものをお使いください。
法務局に行き、登記を申請する
提出先は、物件の所在地を管轄する法務局です。
法務局の開庁時間は、平日の午前8時30分から午後5時15分までです。
申請の際には、登録免許税を納める必要があります。
各法務局に印紙売り場がありますので、免許税額分の印紙を買って納付します。
登記が完了したら、登記識別情報を受け取る
申請してから登記が完了するまでに、2週間程度かかります。
登記が完了すると登記識別情報(いわゆる権利証)が発行されます。
この登記識別情報は、将来の売却時などに必要になります。
再発行はされませんので、必ず受け取り、大切に保管しておいてください。
自分で登記申請をする場合の注意点
登記申請を自分で行えば、司法書士への報酬がかからない分、費用を節約することができます。
その反面、慣れない作業に時間と手間がかかる、ミスをしてやり直しになってしまう、といった可能性も考えられます。
以下、自分で手続きをする場合に起こりそうな失敗例を挙げてみます。
物件が漏れていた
戸建ての場合、近くの道路やごみ置き場などに対しても、権利を持っていることがあります。
また、集合住宅の場合、別に集会所などの建物があり、入居者全員が持分を持っていることもあります。
こうした物件を見落としたまま、契約や遺産分割協議を行っているケースがあります。
物件が漏れていたとしても、契約や遺産分割協議自体は有効です。
ただし、漏れていた物件については、改めて契約等を行わないと、権利を移転させることができません。
前所有者が所有している物件は、謄本、固定資産税の課税明細書、権利証などから、ある程度は確認することができます。
戸籍の収集が不完全だった
相続登記では、亡くなった方の出生から死亡まで、すべての戸籍を揃える必要があります。
また、相続人の中に亡くなっている方がいたり、兄弟姉妹が相続人になったりする場合には、揃えるべき戸籍の範囲や量も増えます。
戸籍は本籍地の役所で取得しますが、通常は結婚や転籍などで本籍地が変わっており、一つの役所で全ての戸籍が揃うことは稀です。
複数の役所から戸籍を取り寄せ、つながっているかどうかを確認し、相続人が誰かを確定する、という作業が必要になります。
戸籍の一部が抜けており、不足している部分をとってみたら新たに相続人がいることが判明した、ということも考えられます。
登記識別情報の発行を希望していなかった
申請書を作る際、登記識別情報の発行を希望する旨を記載していないと、発行してもらえない可能性があります。
また、数人が共有で取得し、そのうちの一人が代表で申請に行く場合、申請書に全員が押印するか、代表者への委任状(登記識別情報受領の文言入り)がないと、代表者の分しか登記識別情報が発行されません。
登記識別情報がない場合には、売却や担保設定をしたいときに司法書士による本人確認情報という書類の作成が必要になります。
本人確認情報の作成費用は事務所により異なりますが、5〜15万円程度の所が多いようです。
費用を節約できるはずが、やり方を間違えると、かえって出費がかさんでしまうことにもなりかねません。
原本をそのまま出した
法務局に提出した書類の一部は、登記完了後に返却してもらうことができます。
ただし、返却してもらうためには、申請時に、還付処理をする必要があります。
この処理をしないと、契約書や遺産分割協議書など、1通しかない書類であっても、返してもらうことはできません。
登記識別情報通知書に関しては、原本ではなく、コピーを出します。
法務局では、登記識別情報が記載された書面は、速やかに廃棄するとされているためです。
所有権の一部を譲渡したり、担保設定をしたりする場合には、その登記識別情報は引き続き有効です。
もし原本を提出して破棄されてしまったら、次に売却などをする際には、先に説明した本人確認情報が必要になってしまいます。
まとめ
手続きにかかる時間や手間は、登記の内容により様々です。
ご自身で簡単にできる場合もあれば、司法書士に依頼したほうが良い場合もあります。
ご自身での手続きを検討されている方は、今回お伝えした注意点なども踏まえた上で、ご判断いただければと思います。