不動産登記の際には基本的に登録免許税を納付する必要があります。
この登録免許税というのは、専門家である司法書士が登記申請の代理人をする際に、司法書士の報酬や他の実費と共にお預かりしてお客様の代わりに司法書士が納税します。
不動産の登記手続きによって税額、税率も異なり、直近年度の固定資産評価額を基に登録免許税を計算します。
本稿では、不動産登記の登録免許税について解説します。
この記事で分かること
前提としての知識
不動産登記には大きく分けて
・『表示の登記』
・『権利の登記』
があります。
不動産登記をするシチュエーションは色々あるかと思いますが、土地購入前に測量をして地積更生登記をしたり、建物を新築した際に建物の登記をする場合等です。
このように、不動産の物理的現況を公示する登記を『表示の登記』といい、土地家屋調査士が専門家として手続きします。
一方、例えば住宅ローンを完済した際にする『抵当権抹消登記』であったり、不動産の売買の際に売主から買主名義にする『所有権移転登記』等このような『権利』に関しての登記もあります。
上記のような誰がどのような権利を持っているか公示するための登記を『権利の登記』といい、司法書士が専門家として手続きします。
そのため、登記手続きについては、手続きの内容によっては土地家屋調査士が手続きしたり、司法書士が手続きしたりすることになります。
物理的現況を登記する表示の登記は、法律上義務(不動産登記法第47条第1項)であり、1か月以内に手続きをしないと10万円以下の過料に処せられます。(不動産登記法第164条第1項)
そのため、表示の登記をする際には登録免許税はかかりません。(法律上義務であるのに、登録免許税まで徴収することは非合理的だからでしょう)
一方、権利の登記は特段法律で強制されていませんが、権利の登記をする際には登録免許税を納めなければなりません。
これは登記という対抗要件を具備することが利益であるからと考えられています。
登録免許税の計算方法
登録免許税の税率については、登録免許税法という法律に定められています。
登記手続きの内容によっても定額であったり、税率が異なります。
以下よくある代表的な手続きの登録免許税について解説します。
⑴ 抵当権抹消登記
不動産一個につき1,000円です。
抵当権抹消登記だけでなく、根抵当権や買戻権の抹消登記等の権利を抹消する登記については、全て不動産一個につき1,000円です。
そのため、抹消登記の登録免許税の算出は容易に出来るかと思います。
⑵ 所有権移転登記の登録免許税の計算方法
売主から買主へ、あげた人から貰った人へ、被相続人(亡くなった人)から相続人等、不動産の名義を変更する際にも登録免許税が課されます。
所有権移転登記については、登記申請日(法務局に申請書類を提出する日)時点の年度(直近年度)の固定資産評価額に一定の税率をかけます。
登記申請日時点の年度というのは、平成30年4月1日から平成31年3月31日の間に登記申請する場合には、平成30年度の固定資産評価額を基準にします。
一定の税率というのは、登記の『原因(理由)』毎に税率が異なります。
原因というのは、『売買』、『贈与』、『相続』等一定の法律行為や事実を指します。
以下所有権移転登記の登録免許税の計算のルールです。
1.税率が違う場合には、それぞれの固定資産評価額を算出。税率が同様のものは固定資産評価額を合算。
2.算出した固定資産評価額に1,000円未満の端数がある場合には切り捨て。
3.切り捨て後の評価額に税率をかける。
4.税率をかけた後の金額を合算。
5.100円未満切り捨て。
この順序に従い計算すれば、誰でも登録免許税を算出可能です。
①売買による所有権移転登記
土地については固定資産評価額の1.5%(平成31年3月31日まで。原則2.0%)
建物については固定資産評価額の2.0%(住宅用家屋証明書を添付した場合には、0.3%。詳細は後述します。)
【具体例】
土地 固定資産評価額 1,000万円
建物 固定資産評価額 1,000万円の場合
1.土地、建物それぞれ税率が違うので、それぞれの評価額を算出。
2.1,000円未満の端数はないので省略
3.評価額に税率をかける 土地 1000万円×1.5%=15万円 建物 1,000万円×2.0%=20万円
4.15万円+20万円=35万円
5.100円未満がないので、35万円がそのまま登録免許税
➁贈与、財産分与による所有権移転登記
土地、建物それぞれ固定資産評価額の2.0%となります。
【具体例】
土地 固定資産評価額 1,000万円 建物 固定資産評価額 1,000万円の場合
1.土地、建物それぞれ税率が一緒ですので固定資産評価額を合算。2000万円。
2.1,000円未満の端数はないので省略
3.評価額に税率をかける 2,000万円×2.0%=40万円
4.省略
5.100円未満がないので、40万円がそのまま登録免許税
➂相続による所有権移転登記
土地、建物それぞれ固定資産評価額の0.4%となります。
【具体例】
土地 固定資産評価額 1,000万円
建物 固定資産評価額 1,000万円の場合
1.土地、建物それぞれ税率が一緒ですので固定資産評価額を合算。2000万円。
2.1,000円未満の端数はないので省略
3.評価額に税率をかける 2,000万円×0.4%=8万円
4.省略
5.100円未満がないので、8万円がそのまま登録免許税
⑶ 抵当権設定登記の登録免許税の計算方法
債権額(借りるお金)×0.4%です。
ただしこちらも建物の所有権移転登記と住宅用家屋証明書を添付すれば0.1%となります。
例えば銀行から3,000万円を借りる場合には、3,000万円×0.4%=12万円が登録免許税となります。
一定の要件を満たした場合には、3,000万円×0.1%=3万円が登録免許税となります。
根抵当権を設定する場合も同様の税率となりますが、根抵当権の場合には極度額の0.4%となります。
根抵当権の場合には軽減措置の適用はありません。
一定の要件を満たすと登録免許税がかからない(非課税)場合がある
登記する際には原則として登録免許税が課税されますが、一定の要件を満たしている場合には非課税となります。
⑴ 所有権登記名義人住所変更の場合
登記簿上の住所が住居表示実施に基づいて住居表示が変わっただけである場合には、住居表示実施証明書を添付すれば登録免許税はかかりません。(登録免許税法第5条第4号)
また同様に地番変更がなされただけの場合にも証明書を添付することによって登録免許税はかかりません。(登録免許税法第5条第5号)
⑵ 所有権移転登記の場合
宗教法人が、もっぱら自己の宗教の用に供する目的で取得する土地・建物については、登録免許税はかかりません。
登録免許税の非課税の要件を満たしている場合には、不動産所在地の都道府県知事が発行する証明書を添付して登記申請をする必要があります。
そのためこの証明書を取得できない場合には、登録免許税は原則通り課税されます。
⑶ 抵当権設定登記の場合
日本政策金融公庫を抵当権者として登記する場合には、一定の添付書類を添付することによって抵当権設定登記の登録免許税が非課税になります。(登録免許税法第4条第2項)
一定の添付書類というのは、抵当権設定者(担保提供者)の登記申請日から発行後6か月以内の印鑑証明書を登記申請の添付書類として添付することによって非課税となります。
そもそも抵当権設定登記には、必ず登記申請日から発行後3か月以内の印鑑証明書を添付する必要がありますので、日本政策金融公庫が抵当権者である登記を申請する際には必ず要件を満たしていることになります。
そのため、日本政策金融公庫から融資を受けて抵当権設定登記をする際には、抵当権設定登記につき、登録免許税が非課税であるといって差支えないでしょう。
一定の要件を満たすと登録免許税が安くなる場合がある
個人が取得する居住用住宅であって、一定の要件を満たすと登録免許税の軽減措置を受けることが出来ます。
登録免許税の軽減措置の要件を満たしていれば、一定の書類を添付して市区町村役場にて住宅用家屋証明書を発行してもらうことが出来ます。
この住宅用家屋証明書を登記申請の際に添付することによって減税措置が適用されます。
共通する要件
・個人が昭和59年4月1日から平成32年3月31日までの間に新築した家屋又は取得した建築後使用されたことのない家屋又は取得した家屋であること
・個人が自己の居住の用に供する家屋であること
・当該家屋の床面積が50㎡以上であること(登記簿上の床面積で判断します)
(所有権保存登記以外)
・取得の日以前20年(鉄筋コンクリート、鉄骨鉄筋コンクリートの家屋については25年)以内に建築された家屋であること
⑴ 所有権保存登記
本則税率は建物の固定資産評価額の0.4%ですが、0.15%に軽減されます。(認定長期優良住宅等であれば、0.1%)
⑵ 所有権移転登記
本則税率は建物の固定資産評価額の2.0%ですが、0.3%に軽減されます。
⑶ 抵当権設定登記
本則税率は債権額(お金を借りる額)の0.4%ですが、0.1%に軽減されます。
登録免許税の納付方法
登録免許税の納付方法は大きく分けて3パターンあります。
実務では、収入印紙での納付か電子納付で納付する場合がほとんどです。
⑴ 収入印紙
登記申請書や、オンライン申請をした際の登録免許税納付用紙に収入印紙を貼付けて納付します。
⑵ 電子納付
書面申請(物理的に書面を法務局に提出する方法)では納付することが出来ず、オンライン申請(インターネットを使用して申請)限定で納付することが出来ます。
金融機関のインターネットバンキングに登録している必要がありますが、いちいち収入印紙を貼付する必要がありません。
⑶ 現金
金融機関(日本銀行歳入代理店)又は税務署で、領収済通知書(納付書)に記入し、窓口で納付をします。
納付すると領収証書が発行されますので、こちらの領収証書を収入印紙での納付と同様に、用紙に貼付します。
まとめ
一般の方にはなじみのない登録免許税ですが、不動産登記手続きには基本的には登録免許税が課税されます。
登録免許税がわからない時は、司法書士事務所に見積もりの依頼をしてください。
要件を満たしていれば軽減措置や非課税措置を考慮した見積もりを作成します。
不動産の名義変更には登録免許税がそれなりにかかります。
司法書士の報酬も含め総額数万円から数十万円かかることを考慮して手続きを進めるか否かを検討するのがおすすめです。